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東京地方裁判所 平成10年(ワ)29971号 判決

原告 日本ビジネスマネージメント株式会社

右代表者代表取締役 津島晴氣

右訴訟代理人弁護士 別紙代理人目録のとおり

被告 破産管財人松嶋英機

右訴訟代理人弁護士 別紙代理人目録のとおり

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

原告が破産者山一證券株式会社に対して金七六七四万四九五二円の破産債権を有することを確認する。

第二事案の概要

原告は、住宅金融専門会社(以下「住専」という。)の一つであった日本ハウジングローン株式会社(以下「ハウジングローン」という。)が、株式会社住宅金融債権管理機構(現在の商号は「株式会社整理回収機構」。以下「管理機構」という。)へ営業譲渡をして解散した後、ハウジングローンから人員を引き継ぎ、これを管理機構等に派遣して債権回収の業務に従事させる受け皿になるものとして設立された会社であるが、右人員の人件費等についてはハウジングローンを設立した際に出資した五社において一定の割合で負担し、原告に贈与していくという合意が成立したとして、その一社である山一證券株式会社(以下「山一證券」という。)の破産管財人に対し、平成九年度下期分から平成一〇年度下期分の人件費等に係る負担金債権合計七六七四万四九五二円(損害金も含む。内訳は別表参照。)の存在することの確認を求める(なお、当初は、原告が山一證券に対し、人件費等に係る金員の支払を求めていたが、山一證券が破産宣告を受け、破産管財人が原告からの債権届出に対し異議を述べたため、破産債権の確認を求める訴えに変更したものである。)。

一  争いのない事実等

1  株式会社日本興業銀行(以下「興銀」という。)、株式会社日本債券信用銀行(以下「日債銀」という。)、大和証券株式会社(以下「大和証券」という。)、日興證券株式会社(以下「日興證券」という。)、山一證券(以上の五社を併せて「母体各社」ということがある。)は、平成八年八月三〇日付けで、協定書と題する以下の内容の書面を作成した(以下「本件協定」という。)。

「興銀、日債銀、大和証券、日興證券、山一證券は、ハウジングローンの解散に伴う同社従業員の雇用等について下記の通り合意したので、本書面をもって確認する。なお、本協定に基づく実施細目については別途協定する。

1 ハウジングローンの管理機構に対する営業譲渡に伴い解雇されるハウジングローン従業員のうち、解雇後ハウジングローン(同子会社を含む)の清算業務及び管理機構の債権回収業務等に従事する者全員を、原告で雇用する。原告は、所要の人員をハウジングローン(同子会社を含む)及び管理機構に派遣する。

2  母体各社は、ハウジングローン(同子会社を含む)及び管理機構における業務の進捗状況に応じ、原告の従業員に対し、母体各社の関連会社等に対する就職斡旋を行い、自己都合退職者を除く原告の従業員全員の雇用を確保する。雇用確保の割合は、興銀が二〇分の一一、日債銀が二〇分の三、大和証券が二〇分の二、日興證券が二〇分の二、山一證券が二〇分の二とする。

3  原告からハウジングローン(同子会社を含む)及び管理機構への派遣者に係る人件費等、母体各社に負担が求められている諸費用については、管理機構が存続する全期間に渡り、興銀が一二分の六、日債銀が一二分の三、大和証券が一二分の一、日興證券が一二分の一、山一證券が一二分の一の割合で負担する。

4  上記1~3の実施細目を協議するため、必要に応じて、母体各社及び原告の実務責任者による人事協議会を開催する。」

2 右協定書に基づき平成八年八月三〇日付けで定められた「日本ハウジングローン従業員の雇用等に係る運営要領」(以下「本件運営要領」という。)には、以下のような定めが置かれている。

「II 費用負担

1  母体負担の対象

<1>原告従業員のうち、ハウジングローン(同子会社を含む)における清算業務及び管理機構における債権回収等の業務に従事する者に係る人件費等(以下「人件費等」という。)を対象とする。

<2>人件費等には、給与・諸手当・賞与・退職金の他、従業員の生活維持のため最低限必要な社会保険・福利厚生費等のすべてを含む。ただし、そのうち管理機構が負担するもの及びハウジングローン(同子会社を含む)清算費用から支出されるものを除く。

<3>人件費等の支給額については、世間一般の水準を考慮の上、原告社長が決定し、母体各社の承認を得るものとする。

2  母体負担の方法

<1>母体各社が、本件協定に基づく負担割合に応じて、半期に一度、原告に対して所定の金額を贈与する。

<2>母体各社の負担額は、原告社長から母体各社宛通知・要請する。

III  原告

1  出資

<1>資本金は一億円とする。

<2>出資構成は、興銀グループが八五〇〇万円、日債銀グループが一五〇〇万円とする。

2  固有業務

<1>業務を維持するため、興銀が所要の支援を行う。

<2>当面は、不動産仲介・管理業務及び市場調査を固有業務とする。

<3>固有業務により賄われる諸経費(固有業務従事者の人件費等)、原告全体の総務経費及び役員人件費は、母体各社による費用負担(「II 費用負担」参照)の対象外とする。

3  つなぎ融資

母体各社による費用負担の対象である人件費等(「II 費用負担」参照)については、管理機構及び母体各社からの入金があるまで、興銀又は日債銀がつなぎ融資を行う。なお、融資条件については、母体各社の承認を得るものとする。」

3  山一證券は、経営が行き詰まり、平成九年一一月二四日、自主廃業に向けて大蔵大臣に営業の休止を届け出た。そして、平成一一年六月二日、破産宣告を受けた。

二  争点

1  本件協定による合意は法的に拘束力を有するか。

(原告の主張)

(一) 本件協定及び本件運営要領に基づき、原告はハウジングローンの解散に伴い解雇される従業員を雇用し、所要の人員を清算中のハウジングローン及び管理機構に派遣し、清算業務及び債権回収業務等に従事させる等の負担を負う一方、山一證券を含む母体各社は、原告に対し、原告からハウジングローン及び管理機構に派遣される者に係る人件費等について、それぞれ所定の負担割合で支払う法的義務を負うことになった。すなわち、母体各社による本件協定は第三者(原告)のためにする契約であるということができる。そして、その後の経過等からみて、原告が受益の意思表示をしたことは明らかである。

(二) また、その後の原告と母体各社との交渉経過等を見ると、原告と山一證券ほかの母体各社との間で直接、母体各社が原告に対し人件費等を負担し、他方、原告は人員の雇用及び派遣を行うという負担付き贈与契約を締結したとみることが可能である。

(被告の主張)

(一)(1)  本件協定は、母体各社において、個々的に原告との間で負担金の贈与契約を締結することにより費用を負担するという合意を書面化したものにすぎないのであって、本件協定の成立により直接母体各社の原告に対する負担金の支払義務が発生するものとは解されない。本件協定は、第三者のためにする契約には当たらない。

(2)  本件協定は、母体各社が原告に対し一方的かつ無条件に金員を贈与するというもので、経済的対価性を有せず、経済的合理性のないものである(なお、母体各社であるというだけで、住専処理に当然に法的責任を負わなければならないという理由はない。)。内容的にも、協定各社の負担割合が定めてあるのみで、負担金額も明らかにされておらず、負担金を支払うべき期限も管理機構が存続する全期間という極めて曖昧なものになっている。このような点からすると、本件協定に基づく債務は、法的な拘束力を有せず、当事者の任意の履行を期待するにとどまるもので、自然債務ないし不執行特約付き債務というべきである。

(二) 原告と被告との間に原告の主張するような贈与契約は成立していない。

2  被告の経済状態が著しく悪化して、営業を停止したというような場合にも、原告は被告に対し、なお本件協定等に基づき債務の履行を請求できるか。

(被告の主張)

(一) 仮に本件協定が第三者のためにする契約に当たり、山一證券は原告に対して直接義務を負うとしても、あるいは原告と山一證券とが直接贈与契約を結んだと解されるとしても、本件協定ないし贈与契約は、被告の経済状態が著しく悪化したことを解除条件としていると解釈すべきである。すなわち、(1) <1>山一證券は、本来的にはハウジングローンの株主としての責任しか負わないはずであること、<2>山一證券はハウジングローンの経営に深く関与していたわけでもないから、経営責任を負う地位にもないこと、<3>山一證券は、興銀や日債銀と異なり、ハウジングローンからさしたる恩恵も受けていないことなどの点からして、山一證券にはハウジングローンの清算につき負担金を支払うべき法的責任はないこと、(2) 山一證券は原告の出資者でもなく、原告に役員及び従業員を派遣しているわけでもないのであって、原告に対して金員を拠出する根拠が薄弱であること、(3) 本件協定の表題は「協定書」であり、その内容も法的義務を負担するというような文言ではなく、抽象的で、支払額も曖昧であることからすると、本件協定は紳士協定的な意味合いから作成されたものといえること、(4) 本件協定は、国から依頼を受け、金融システムの安定のために締結されたものであって、法的な観点からではなく政治的な観点から合意がされたものであること、などの諸点を考えると、本件協定には、山一證券については経済状態の著しい悪化を解除条件とするとの合意が付されていたと解すべきである。

そして、山一證券は、経営が行き詰まり、平成九年一一月には自主廃業に向け営業を停止し、その後自己破産の申立てをして破産宣告を受けたところ、右営業停止の時点で右の解除条件が成就したものというべきである。

(二) 本件協定に基づき山一證券が原告に負う債務は、対価性のない贈与類似のものということができるところ、贈与契約においては、贈与者の財産状態が悪化した場合には、贈与の無償性を根拠に、事情変更の原則等を理由として契約の解除権を行使することができ、それにより未履行の贈与債務の履行義務は消滅し、贈与の履行を拒絶し得ると解されている。右法理は本件においても妥当するというべきである。なお、原告と山一證券との間に直接贈与契約が成立していると解する場合も同様である。

(原告の主張)

被告の主張は争う。本件協定の条文等からして、被告主張のような解除条件が付されているということはできない。また、本件で事情変更の原則等により解除権を行使できるとする理由もない。

第三当裁判所の判断

一  前記争いのない事実等、関係証拠(甲第四ないし第八号証の各一ないし五、第九号証の一ないし四、第一〇号証の一ないし五、第一一号証の一ないし四、第一二号証の一、二、第一三号証の一ないし三、第一四号証の一ないし五、第一五号証の一ないし四、第一六、第一七号証の一ないし四、第一八号証の一ないし三、第一九号証の一、二、第二〇号証、第二一号証の一、二、第二四、第二五号証、乙第六ないし第九号証)並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。

1  ハウジングローンは、昭和五一年六月、母体各社等が発起人となり、不動産、不動産に関する権利又は有価証券を担保とする住宅資金貸付け、抵当権付き債権及び担保物件の保険料の集金、支払事務の代理並びに担保物件の管理、住宅資金貸付けに関する債務の保証等のいわゆる住宅金融を事業目的として設立された。いわゆる住専のうちの一社である。

2  設立に際して発行された株式一六〇万株のうち半分の八〇万株を母体各社がほぼ五分の一宛の割合で引き受け(各社一〇パーセントの割合)、残りの半分は、生命保険会社、証券会社、信託銀行等が引き受けた。

山一證券、大和証券及び日興證券(以下「証券三社」という。)が出資した主な目的は、当時、いわゆる財形住宅貯蓄制度が開始されたころで、財形住宅ローンを業務として行う関係会社があることを財形貯蓄の口座を獲得する足がかりにしたいという思惑からであった。

3  その後増資がされ、母体各社の保有株式の割合は約五パーセントになった。平成五年の時点では、資本金額一二七億三七三〇万円、発行済みの株式数は八五〇万株となり、母体各社はそれぞれ五パーセントの株式を保有し、そのほか母体各社の関係会社がそれぞれ約一〇パーセント(合計七七・九四パーセント)を保有するようになっている。

4  ハウジングローンの役員(取締役及び監査役)をみると、昭和五八年以降は興銀及び日債銀の出身者がほぼ常時それぞれ四名以上在籍していた。また、社長は、当初の五年間は大蔵省出身者が務めたが、その後は興銀出身者がつき、副社長のポストも日債銀出身者ないし興銀出身者が占めていた。これに対し、山一證券出身の役員は、ほぼ常勤一名、非常勤一名にとどまり、かつ、その占めるポストは、一時期を除くと(常務取締役についたことがある。)、平取締役又は監査役であった。

5  ハウジングローンの従業員数は当初二七名で出発した。そのうち興銀の出身者ないし出向者は四名、日債銀は五名であり、山一證券は二名であった。そして、平成七年一二月の時点でみると、従業員数は合計三四三名であったが、興銀の出身者ないし出向者は二〇名、日債銀は八名であったのに対し、山一證券の出身者は一名のみであった。

6  住専各社は、元々は個人向け住宅ローンへの貸出が中心であったが、いわゆるバブル経済の下、銀行や農林系金融機関からの融資を受け(被告には興銀や日債銀等が融資を行った。)、不動産業向けの融資を急速に拡大した。しかし、バブル崩壊後貸出先の不動産業者の経営悪化により不動産業者の元利の支払が滞り、不動産業者に対する貸付の多くが不良債権化し、経営が危機に瀕するようになった。

7  このような情勢の下、平成五年五月、ハウジングローン支援のため、母体各社は、第三者割当増資に応ずること、興銀及び日債銀は、貸付金の一部免除、六〇〇億円を上限とする新規貸出をすること、証券三社は、グループ関連会社などを通じてハウジングローンが担保として徴求している不動産をそれぞれ七〇億円分買い上げ、かつ、二〇〇億円を上限として新規貸出を行うことなどを決めた。なお、山一證券は、大蔵省から、金融システムの混乱を防ぐという趣旨で要請があるなどしたため、この支援策を受け入れたものである。その結果、山一證券は、関連会社分を含め、三〇億円の新株引受け、約七〇億円分の担保不動産の取得、約五〇億円のつなぎ融資を実行した。

8  平成七年八月、大蔵省が住専各社を立入り調査をしたところ、巨額の不良債権を抱えていることが判明した。その後関係各界の間で住専の問題について議論がなされ、結局、金融システムの混乱を回避する目的で、<1>住専各社の債権等を管理機構に譲渡させ、住専各社は解散させる、<2>住専設立の母体となった金融機関は債権全額を放棄し、その他の金融機関は債権の一部を放棄し、農林系金融機関は管理機構に一定額の金員を贈与する、<3>今後の債権回収業務は管理機構において行う、などの住専処理の枠組みが政府の方針として決定された(平成七年一二月一九日付け閣議決定「住専問題の具体的な処理方策について」平成八年一月三〇日付け閣議了解「住専処理方策の具体化について」)。

9  これを受け、平成八年三月二九日付けで、母体各社は、ハウジングローンの営業譲渡及び解散を行うため必要な手続を進めること、興銀及び日債銀は貸出債権を放棄することに合意した。そして、ハウジングローンの取締役会は、特定住宅金融専門会社の債権債務の処理の促進等に関する特別措置法等(いわゆる住専処理法)の成立を条件に再建計画を断念するとの決議をし、興銀と日債銀は、ハウジングローンの債権合計五三六九億円を放棄した。

10  平成八年六月、ハウジングローンの定時株主総会において、ハウジングローンが管理機構に営業譲渡をして、平成八年八月三一日に解散することが決議された。そして、平成八年七月、住専処理法が国会で成立し、それを受けて、平成八年八月二九日付けで、大蔵省から関係各社に、前記の政府方針に沿って、<1>住専各社は、平成八年一〇月一日付けで管理機構に営業を譲渡する、<2>譲渡後の住専各社の債務処理の財源は、母体行等による債権放棄、農林系金融機関からの贈与等でまかなう、<3>管理機構が住専各社に支払う営業譲渡の対価は、母体行や農林系金融機関が融資するということを骨子とする「住専処理に係る基本協定」が提示され、同年末までに、山一證券を含めた関係各社は預金保険機構宛合意書を提出した。ただし、山一證券は、「これまで住専に対して融資を行ったことがないことなどから、<2>の債権放棄とは関係がない。また、<3>の母体行等による融資についても、ハウジングローンについては興銀及び日債銀が融資を行うことになっていたことから、右合意書の提出によって何らの義務を負うものではない。」という趣旨の書面を大蔵省宛に差し入れている。

11  ところで、管理機構において住専各社から引き継いだ債権を強力かつ効率的に回収するためには過去の貸付内容や貸付先の事情を知る住専の従業員の中から人材を確保する必要があった。また、住専解散後における住専の従業員の雇用確保の問題もあった。そこで、関係者の間で、<1>各母体行やその関連会社が従業員を直接雇用し、管理機構に出向させるという案と、<2>従業員の雇用の受け皿になる会社を設立してそこに従業員を在籍させた上管理機構に出向させるが、その人件費は母体行が負担するという二つの案が議論された。そして、一部の住専については<1>の案が採用されたが、ハウジングローンについては、ハウジングローンの従業員間の雇用条件の公平を保つ必要があることや証券三社から直接従業員を雇用するという案は採りにくいという意見が出たことなどから、<2>案を採用することになった。そこで、<2>案に沿って、平成八年八月三〇日、本件協定や本件運営要領が締結された。そこで合意されたことの概要は、「<1>ハウジングローンの従業員のうち解雇後ハウジングローンの清算業務に関わる者は原告において雇用する。<2>ハウジングローンの従業員のうち原告で雇用しない者の就職斡旋は母体各社において行う。<3>原告において発生するハウジングローンの清算業務等に関わる者の人件費等は、母体各社が原告に贈与することにより負担する。<4>右人件費等の支給額は原告の社長が決定し、母体各社の承認を得ることとする。<5>母体各社から入金があるまでは、興銀又は日債銀がつなぎ融資を行う。<6>実施細目を協議するため、必要に応じて協定五社及び原告による人事協議会を開催する。」というものであった。

12  平成八年八月三〇日、ハウジングローンは解散して清算業務に移行し、同年九月三〇日、ハウジングローンの従業員は全員解雇されたが、原告がそのほとんどの人員を雇用した。そして、同年一〇月一日、管理機構にハウジングローンの営業が譲渡された。

13  原告については、興銀及び日債銀が出資したが、証券三社は出資せず、役員や従業員の派遣も行っていない。

14  原告の設立後、毎月一回人事協議会が開催され、原告の社長から業務報告を受け、母体各社は人件費等の支給額について承認を与えてきた。山一證券は、原告に対し、平成八年度下期分人件費等として、平成九年三月二五日に三一七九万八七六七円、平成九年度上期分人件費等として、同年九月二五日に二五三四万五一〇七円を支払った。

15  前記のように、山一證券は、その後経営が行き詰まり、平成九年一一月二四日自主廃業に向けて大蔵大臣に営業の休止を届け出て、営業活動を停止した。それに伴い、日銀は、国内外の金融市場での混乱回避と顧客資産保護のため、山一證券に対し特別融資(日銀特融)の発動を決定した。その後、山一證券は、自主廃業に向けて順次営業店舗の閉鎖、従業員の解雇等を進めてきたが、平成一一年六月二日、破産宣告を受けた。

16  そのような中、原告から母体各社に対し、平成一〇年三月一八日付けで、平成九年度下期分人件費等に係る負担金の請求がなされた。しかし、山一證券は、右請求は、顧客資産の返還業務に関わる支出でもなく、実質的な機能を喪失して再生の可能性のない会社にとって必要最小限の支払に当たるものでもないなどとして、請求分二三九九万九二四七円の支払を拒んだ。また、原告は、山一證券に対し、平成一〇年九月一六日付けで平成一〇年度上期の人件費等に係る負担金二五八二万六五一九円、平成一一年三月一八日付けで平成一〇年度下期の人件費等に係る負担金二三八七万四八五九円の支払を求めたが、山一證券はいずれも同様の理由で支払を拒んだ。

17  前記のとおり、山一證券は、財形住宅ローンを業務として行う関係会社があることを財形貯蓄の口座を獲得する足がかりにしたいという思惑からハウジングローンに出資したものであるが、財形住宅ローン自体全く進展せず、特段ハウジングローンの事業から利益を得ていないものである。

二  以上の事実関係を前提として、判断する。

1  争点1について

前記認定によると、原告は、住専問題処理のための枠組みの一つとして、ハウジングローンの従業員の雇用の受け皿になり、かつ、ハウジングローンから管理機構に譲渡された債権回収のため雇用した自己の従業員を管理機構に派遣するという役割を果たすために設立されたものであり、母体各社が負担金を原告に対して拠出することはこの原告の事業の前提になっていたものということができるから、本件協定は単なる紳士協定の意味しかないとか、本件協定から導き出される債務は自然債務であるなどと解することは妥当でない(当事者の合理的な意思に反するというべきである。)。本件協定は、母体各社が原告に対して定められた割合の負担金を贈与することを法的な義務と定めているというべきであり、いわゆる第三者のためにする契約であると解するのが妥当である。この点に関する被告の主張は採用することができない。

2  争点2について

(一) 山一證券が本件協定に合意したことに関しては、以下のような点を指摘することができる。

(1)  まず、山一證券が本件協定により負う権利義務関係をみると、山一證券が一方的に資金を贈与する義務を負うのみで、それに見合う対価は定められていないのであり、本件協定自体は、山一證券にとって何ら経済的合理性のないものになっているといわなければならない。

(2)  そして、法的観点からすると、これまでの過去のいきさつ等からして山一證券がそのような資金贈与を承諾せざるを得ないような立場に置かれていたとも直ちにはいえないものである。すなわち、ハウジングローンと山一證券との関係は、山一證券が株式会社であるハウジングローンの出資者(株主)であるという関係に立つにすぎないということができるから、ハウジングローンがたとえ経営に失敗し巨額の負債を負うに至ったとしても、山一證券がそのことに法的な責任を負うという関係には立たない(法律上、株式会社の株主は、その拠出した出資の額を限度とする間接的かつ有限の責任を負うにすぎない。)。そのことは、山一證券出身者(すなわち山一證券に雇用されていたないし取締役等として勤務していた者)が取締役等としてハウジングローンの経営に参画していたからといって、変わりがないはずである(経営陣に山一證券出身者が在籍したからといって、山一證券が当然にハウジングローンの経営破綻に法的に責任を負うということにはならない。)。法的観点からすると、山一證券は、ハウジングローンの経営破綻により、自己の出資した資金を失うだけでよいはずであった。

(3)  山一證券が、このように法的観点からすると当然には要求されないはずの資金の贈与という義務を負うことに合意したのは、ハウジングローンの設立の発起人で株主の一人であり、ハウジングローンの経営陣や従業員に自社の関係者を送り込んで、その経営に影響を与え得る立場にあったということによる社会的ないし道義的責任を果たすためであったと理解される。

(4)  もっとも、山一證券がハウジングローンの経営破綻に社会的、道義的な観点から責任を負うといっても、その社会的道義的責任の程度は、以下のとおり、決して高いものではなかったということができる。すなわち、<1>山一證券は、財形住宅ローンへの思惑からハウジングローンに出資したものであるが、その思惑は外れ、ハウジングローンの事業遂行により利益は得なかったものである(これに対し、興銀や日債銀は、バブル期にハウジングローンに資金を融資してそれなりの利益を得たと推認される。)。また、<2>ハウジングローンの社長、副社長という中枢ポストは、歴代大蔵省、興銀、日債銀出身者により占められていたのであり、役員の数という面からみても、昭和五八年以降は興銀、日債銀出身者が常時四名以上在籍するようになったのに対し、山一證券出身の役員は常勤一名、非常勤一名にとどまっていたものである(しかもその占めるポストは平取締役ないし監査役どまりであったことが多かった。)から、山一證券のハウジングローンの経営に与える影響力はそれほど大きくなかったことが推認される。また、<3>ハウジングローンの従業員の関係をみても、山一證券出身者は数名にとどまっており(ハウジングローンの破綻時では一名。なお、その者は原告に雇用されていない。)、その面でも山一證券とハウジングローンの関係はそれほど深くないということができる。

(二) このような点からすると、社会的ないし道義的責任という観点からしても、山一證券が原告に資金を贈与しなければならない根拠はそれほどはっきりしたものではなかったということができる(原告の設立に当たり興銀と日債銀のみが出資し、山一證券が原告に出資しなかったことは、その現れであると考えられる。)。結局、山一證券が本件協定に加わった根拠は、ハウジングローン設立の発起人になり、株主の一員であったことによる漠然とした意味での社会的責任を果たすという程度のものにとどまるのであって、その実質は恩恵的な贈与に近いものであったというべきである。

(三) これらの点に本件協定により山一證券が負うことになる義務は管理機構が存続する限り継続するという不確定な内容のものであることも考え併せると、本件協定により山一證券が負う債務につき、山一證券自体の経営状態が著しく悪化し、そのような負担金の支払が困難になったのになおそれを履行しなければならないと解するとすると、それは著しく不合理であるというべきである。このような点を考慮すると、本件協定に基づき山一證券が負う債務の履行については、黙示的にではあるが、「経営状態が著しく悪化し、本件協定に基づく債務の履行が困難になったこと」という解除条件が付されていると解釈するのが相当であるというべきである。そして、右解除条件は、遅くとも山一證券が自主廃業に向けて大蔵大臣に営業の休止を届け出て営業活動を停止した平成九年一一月二四日の時点では成就したというべきである。

3  そうすると、原告の本件請求はすべて理由がないことになる(原告が本件で請求する負担金は、いずれも右解除条件成就の時点より後に請求され、履行期が到来するものである。)。

三  よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大坪丘 裁判官 浦木厚利 裁判官 辛島明)

(別紙)代理人目録

1 原告

今井和男 正田賢司 森原賢司 吉澤敏行 沖隆一 大越徹 柴田征範 有賀隆之 伊藤治 中川明子 中村直 山崎哲央

2 被告

綾克巳 星隆文 相澤光江 小池和正 戸崎愛理 升田純 濱田芳貴

別表

平成9年度下期分

2399万9247円

上記損害金(平10・3・26から平11・6・2まで)

171万2165円

平成10年度上期分

2582万6519円

上記損害金(平10・9・26から平11・6・2まで)

106万1363円

平成10年度下期分

2387万4859円

上記損害金(平11・3・26から平11・6・2まで)

27万0799円

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